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1998 年 11 月 19 日 (木曜日)


いよいよアメリカ一人旅に出発する。11 月 19 日から 12 月 7 日までだ。行き先はニューヨーク、ワシントン D.C.、サンフランシスコの 3 都市。会社は 11 月 14 日から 12 月 13 日まで、丸一月の有給休暇を取った。休みが終わったあと仕事に復帰できるのか不安だ。ちなみに会社からノートパソコンを借りたので旅行中でも通信ができる。個人のメールを送受信できるのは助かるが、会社のメールは仕事が入る可能性があって少し恐い。

空港に行く前に、銀行でトラベラーズチェックを 300 ドル購入した。アメリカに行く際に笑顔が重要になると思い、練習のため満面の笑みを浮かべながら銀行の窓口で購入したが、怪しまれるということはなく逆に窓口の人に話し掛けられてちょっとした会話をすることができた。出だしは快調だ。もちろん練習とは言っても "Hi!" と声をかけたりはしなかった。以前にハワイに行ったときは店の人が "Hi!" と言ってきても慣れてないので無視してしまい、店の人が不機嫌そうになるということが何回かあった。今はそういうのはアメリカではまずいと知っているので大丈夫なはずだ。トラベラーズチェックは先日 300 ドル購入したが、長い旅行なので足りなくなると思いさらに買い足したのだ。18 日間アメリカにいるので 1 日におよそ 30 ドルの現金を使ってよいことになる。3000 円強だ。少ないかな。でもこれは使える金額の制限ではなくて現金の制限で、クレジットカードを使う分には何も問題はない。僕は普段はセゾン VISA カードを使っている。アメリカではゴールドカードを使うとサービスが良くなるという話を友人から聞いたので最近 JCB のゴールドカードを取得したのだが、残念ながらアメリカではあまり使えないと思う。ガイドブックを見ても JCB が使えるところはそれほど多くはない。このゴールドカードは法人カードなので年会費はないが、考えてみるとゴールドカードは旅行保険がついているので、たとえ年会費を払ったとしても頻繁に旅行をする人にとってはむしろ安上がりだ。日本に帰ったらもう少しゴールドカードについて検討してみよう。

今回の旅行は飛行機の時間が遅いので、成田空港に行くのに電車の指定席はとらず、京成の特急を使って移動した。この電車は特別料金がかからない割には JR の成田エクスプレスとあまり変わらない時間で到着するのでありがたい。結局空港に着いたのは午後 2 時。飛行機は午後 4 時半なので余裕だ。航空券は格安チケットでしかも閑散期なので、成田→ニューヨーク→ワシントン D.C. →サンフランシスコ→成田の 4 枚全部合わせて 7 万円そこそこしかしない。去年ハンガリーに旅行したときは往復で 20 万円以上したのを考えると実に安い。これでマイレージも付くのだから素晴らしい。

飛行機はいつもの通り、寒くて席が狭い。一度で良いからエコノミー以外に乗ってみたいものだ。しかも 3 列並んだ席の窓側なので、景色は見えるがトイレに行きづらい。隣に座ったのがアメリカ人の老夫婦で席を立つのが大変そうに見えたので、トイレには行かないと決めた。いつもなら無料のジュースやお茶をがぶ飲みするところだが今日は我慢だ。その隣の夫婦が席に座るときに "Hi!" と言ってきたのでこちらも笑顔で "Hi!" と言い返したら、それをきっかけに話が弾んだ。出だしは快調だ。その夫婦は「ハーンカーン」旅行の帰りだと言っていたのでそれってどこの国にあるんだと思いつつ話を進めていたら、"Hong Kong" と言っているのだと気づいた。英語の発音は未だに難しい。英語修行の先は長いな。老夫婦は、ニューヨークにはいろいろな種類の人間がいるということを忘れないでくれと言っていた。アメリカ人にとっても都会は危険に見えるんだな。95% はいい人だとも言っていたが。

水分を全然取らなかったためにトイレは行かなくて済んだ。十数時間の間行かなくても大丈夫だと知ったのは収穫だ。途中ちょっとやばい時もあったけど、人間は一度決めたことはやり遂げなければならないと思い(ちょっと違う?)、我慢しつつ眠りに入ったらすっかり尿意も去ってくれた。眠ったら頭もすっきりした。何しろ東京とニューヨークでは時差が 14 時間ある。ほとんど昼夜逆転だ。うまく体のリズムを整えておかなくてはならない。

足がむくんで靴が履けなくなるんじゃないかと思いはじめた頃(もちろん靴は脱いでいた)、やっとニューヨーク・JFK 空港に到着した。隣の老夫婦にお別れを言い、ついにニューヨークの地に降り立った。到着したときのニューヨーク時間は日本を出発したときの日本時間とほとんど変わらないが、体のリズムは良い。もう日が傾きはじめていて、夜は危険だと聞いているので今日は大した事はできない。夜に出歩けないのはつまらないが仕方があるまい。まずは空港の無料バスでハワード・ビーチ駅に移動する。それから地下鉄でペンシルベニア駅まで移動した。地下鉄は危ないと良く言われていて、荷物をひったくられないように扉の近くには座るなとか荷物から手を放すなとかの忠告を聞くが、実際はそれほど危険な感じはしなかった。ただ忠告には従って、周囲の気配に対する知覚を全開にしながら真ん中あたりの座席に座っていた。正面には旅行者っぽい人が座っていたのでちょっと気が楽だった。何事もなく駅に着いたので気分はもうニューヨーカーだ。最初に地上に出たときに方向感覚がつかめなかったが、そんな時には方位磁針が役に立つ。わざわざ日本から持ってきて良かった。自分がどちらを向いているのかがすぐに分かる。マンハッタンの中央部は道路が格子状になっているので自分の向きさえ分かれば迷わない。

今日泊まるホテル、ペンシルベニアホテルはマディソン・スクエア・ガーデンの目の前で、駅からすぐだった。旅行者がやたらと多い大きなホテルだ。チェックインのときに笑顔で "Hi!" と言ってみた。ホテルの人も "Hi!" と返してきた。うむ、この感じだ。しかしその女の人はあまり愛想が良くなかった。笑顔がないとアメリカではやっていけないぜ、と言いたくなった。

ホテルに荷物を置いたあと、ブロードウェイをぶらぶらし、街の雰囲気を味わった。ニューヨークは人種のるつぼという言葉が本当にふさわしい。ヨーロッパ系、アフリカ系はもちろん、東洋系、中東系など様々な顔立ちの人たちが街中にいるので日本人の僕がいても全然浮いている感じがしない。これは素晴らしいことだ。ハンガリー旅行をしたときに感じたような疎外感というのが全然ない。また同じヨーロッパ系でも色々な人がいて、僕より背が高い女の人は少なくないし、僕より背が低い男の人も少なくない。ハンガリー人がもっと均質でほとんどの男の人が 180cm 前後だったのに比べるとずっと多様性がある。旅行者にとって実に居心地が良い。

街中ではたばこを吸っている人が少なくない。もうアメリカ人はたばこは吸わないと思っていたので意外だった。東海岸だからか? ただ、レストランは法律で全面禁煙になっているそうで、それはありがたい。僕はたばこの匂いが嫌いだからだ。

ブロードウェイを北上してタイムズスクエアを通過したあたりで適当に近くのリンディーズというカフェに飛び込み、ステーキとえびフライの組み合わせを注文した。自分では "rare" と言ったつもりだったのだが、"well" と聞き取られてしまった。何でだろう。どちらでも良かったのでそのまま受け入れた。でもその人は "hot tea" を "coffee" と聞き違えていたので僕だけが悪いのではないだろう。さて、出てきた料理は見た目は美味しそうだったが、味がなくて全然美味しくなかった。八割くらい食べたところでテーブルの上にステーキソースのびんがあるのを発見した。そうか、自分でソースをかけるのか。味がないのも当然だ。早速ソースをかけたが、味は付いたもののあまり美味しくないというのは変わらなかった。そもそもソースといっても自家製ではなくて、ありふれた市販のびん入りステーキソースだ。アメリカ料理だからこんなものなのだろうか。まずくはないが、美味しくもない。その割には高かった。

支払いはクレジットカードで行った。その方がチップの払い忘れがなくて安心なのだ。まず注文を取ったのと同じウェイトレスに "Check, please." と言い、伝票をもらう。計算が正しいことを確認したらクレジットカードをその上に置いておく。するとウェイトレスがクレジットカードのサイン用紙を持ってくる。この用紙に本来の値段の下にチップの値段と合計の値段を書く欄があるので、適切な値を記入して自分の名前をサインすれば終わりだ。テーブルの上に現金を置く必要がないので間違いがないし、料理の値段の 15% から 20% といわれるチップの値段を計算するのも楽だ。それに現金を持ち歩かなくて済む。現金で買い物をすると小銭が増えるし、現金を持っていると不安なので、これからも極力クレジットカードを使っていくようにしたい。

ホテルに戻り、テレビを見た。隠しカメラで撮ったひどい従業員の特集で、唾を料理に混ぜるコックとか床に落とした料理を靴でかき集めて元に戻す食料品店の従業員とかがいて恐ろしかった。アメリカ人に職業倫理はないのか? あと、アメリカのテレビコマーシャルは何でこんなにつまらないんだろう。商品名を連呼するだけの無芸なものがほとんどだ。ドラマ性というものが何もない。唯一ドラマ性を感じさせるコマーシャルはプレイステーション用ソフトのもので、日本で見かけるものと感覚が同じである。しかもコマーシャルの最後にプレイステーションのロゴが出て、生意気そうな少年の声で「プレイステーション」と言うのまで同じだ。その時の発音も "Play Station" ではなくてあくまで「プレイステーション」である。

今日のホテルは日本から予約したが、もともと値段が高い上に旅行会社を通じて予約したのでさらに高くなり、腹立たしいので一泊しか取らなかった。明日からの宿を確保するためホテルに片っ端から電話し、やっとマーサ・ワシントン・ホテルというところで部屋を取った。電話したのは比較的安いホテルだけだが、あまり安いホテルだと危険だと聞いたので、ある程度の出費は仕方がない。旅行ガイドに載っているホテルに電話したので日本から予約することもできた。次からはそうしよう。

ホテルの電話線を見たらモジュラージャックではなかったため、パソコン通信は無理だった。明日からのホテルに期待しよう。



翌日

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