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1998 年 11 月 22 日 (日曜日)


今日は自由の女神に行く。ホテルを 8 時過ぎに出発した。朝食は日本から持ってきたインスタントラーメンだ。と言ってもお湯でゆでたわけではない。袋を開けて、あとは生でばりばりとむさぼるのみである。このラーメンは会社に台湾から研修に来ている人からもらった菜食主義者用のもので、麺にあらかじめある程度の味が付いているので生で食べても意外といける。チキンラーメンもお湯を注ぐよりも生で食べる方が美味しいくらいなので別に変な感じはしない。ただ、かやくを生で食べたらあまり美味しくなかったので、食べるのは麺だけにした。早朝のマンハッタンを歩きながらぼりぼりとラーメンを食べるのも一興だ。

ブロードウェイ(道の名前)を南下し、ソーホーを通過する。ソーホーはセンスの良い店が集まっているところと聞くが、朝早いので店はどこも開いていないので街の雰囲気は分からなかった。さらに南下してウォール街の近くを通り、やがてマンハッタン島最南端のバッテリーパークに到着した。ここから自由の女神があるリバティー島へのフェリーが出発する。行ってみるとすでにフェリーに乗る人々の列ができている。時刻は 9 時過ぎだがみんななかなか早起きだ。早速列の最後尾に並んだのだが、前の人がすでに券を持っていることを見つけ、券を買いに辺りをうろついた。結局すぐ近くの建物で券が買えることが分かったのだが、あまり分かりやすい位置ではなかったので改善してほしいところだ。券を買って戻ってみるとさらに列が延びている。時間を少し損してしまった。列の周りには観光客を狙う行商人や演奏家が多い。行商人の多くは時計やシャツを売っている。最初はアフリカ系アメリカ人だと思ったが、身内では良く分からない言葉を話しているのでどうもアフリカ人らしい。最近のニューヨークにはアフリカからの移民が多いという話だ。彼らは昔からいるアフリカ系のアメリカ人とは雰囲気が違う。何だか浮いているのだ。

いよいよフェリーに乗るというとき、後ろから日本語が聞こえてきた。見ると日本人の女の子二人組だ。フェリーに乗るときに券が必要がどうかを話し合っている。彼女らは券を買わずに並んでしまったのだ。僕が振り返って、フェリーに乗るには券を事前に買う必要があることを教えるとかなり衝撃を受けていた。何しろ数十分並んであとちょっとで乗れるというときに列を離れなければならないからだ。そんな二人を置いて、僕は 10 時ちょうどにさっさと乗船した。本当は少し孤独を感じてきたころだったので話し相手が欲しかったのだが、自分は券を持っているのに一緒に券を買いに行くのも変だと思って何もしなかった。海上は風が強くて寒いが、我慢してデッキにとどまった。船がやがてバッテリーパークを離れると、マンハッタンのビル群が段々小さくなっていって全体を一望できるようになった。バッテリーパークの近くには世界貿易センターという二棟の超高層ビルがあって、その他にもマンハッタン南端には高層ビルが林立している。それから離れてマンハッタン中央部にエンパイア・ステート・ビルが立っている。その両方を視界に入れるにはこうしてマンハッタンを離れなければならない。朝日を受けて輝く南端のビル群は現代的な感じがするがあまり個性を感じない。逆にエンパイア・ステート・ビルは古い感じがするがそれが逆にニューヨークを感じさせる。

やがてリバティー島に立つ自由の女神像が近づいてきた。大きいとはいえマンハッタンの摩天楼に比べるとずっと小さいし、表面が風雨にさらされて少し汚れているので予想外に威圧感がないが、右手にたいまつをかかげるその有名な姿を見るとニューヨークに来たのだという実感が湧いてくる。船はリバティー島の周りを半周して、自由の女神がマンハッタンを背景にして立つ辺りに接岸した。下船し、像を眺めながら島の周囲を歩いていると、像の台座の後ろに人の列ができているのを発見した。像に登るための列らしい。すぐに列に並び、像を目指す。台座に入って金属探知器を通るところでリュックの中のパソコンを見とがめられ、起動して何も問題ないことを示す羽目になってしまった。安ホテルだと部屋に置いてあるものを盗まれることがあると聞いていたのでわざわざ重いパソコンを持ち歩いているのだが、慎重すぎるかもしれない。今泊まっているところは安めとはいえ盗まれそうなほど怪しいところではないからだ。また街角で通信ができるかと思ったら全くそういう設備はなさそうなので、明日からは持ち歩かないことにするか。

列の進みはやたらと遅かった。金属製の網目がある階段をずっと登っていくのだが、途中で止まったきり動かないことが多かった。たまに動いても階段を十歩も登れれば良い方である。最後は手すりが低い急角度のらせん階段になるので結構恐い。手すりを両手でつかんで登っていかないと落ちそうな気がする。リュックで来て正解だった。手荷物があるととても登れないと思う。並び始めてから 2 時間近くしてやっと頂上に到着した。自由の女神像の冠の部分に当たる。想像していたよりもずっと狭い。4 人立つのが限界だ。これでは列がなかなか進まなかったのも当然だ。外は小さいガラス窓越しにしか見えないが、遠くの景色を見て今冠の部分にいるのだと実感した。

降りるのはあっと言う間だ。もっと朝早く来ればあれほど待たなくて済んだと思う。降りてきて列を見ると、登ったときよりもずっと延びていた。ということは今並んだ人たちは登るのに 2 時間以上かかるということだ。大変だね。観光地は朝早く行くに限る。

像を出て近くのカフェテリアで昼食を取った。食べたのは鶏肉のハンバーガーで、あまり美味しくなかった。期待していなかったので驚きはしない。一緒に飲んだホットチョコレートは美味しかった。でもインスタントだ。そうして昼飯を簡単に済ませ、再び乗船した。フェリーの次の目的地はエリス島で、そこには移民博物館があるがあまり面白くなさそうなので無視し、そのままバッテリーパークに戻ってきた。船に乗っている間、船の周りを数羽のかもめが飛んでいて気持ち良さそうだった。かもめは強風の中を巧みに船と同じ速さで平行に飛ぶので、船上の僕から見ると空中に静止しているかのような錯覚をおぼえる。優雅だなと思ってみていると、隣の人が食べているハンバーガーに襲い掛かった。狙いは食い物か。あさましい生物だな。隣の人がさっとかわすともう人には近づかなくなったが、みんなが安心したころに空中から糞を落としてきた。僕の目の前のベンチに落ちたが、そこには誰もいなかったので誰にも被害はなかった。他のベンチは全部埋まっているので人がいなかったのは全くの偶然だ。これ以上糞攻撃があると嫌なので僕は船内に退却した。マンハッタンに着いたときはもう昼過ぎだった。

バッテリーパークを出て北上し、世界貿易センターに行った。マンハッタンで最も高い、双子のビルだ。休日だからか、人通りはあまり多くなかった。券売り場に行っていざ券を買おうとしたとき、ニューヨークの主な観光地の券を一まとめにした割引券が売られているのを見付けて衝撃を受けた。エンパイアステートビル、世界貿易センター、メトロポリタン美術館、それに自然史博物館の券の組みで、通常の合計金額のおよそ半額で全てに行くことができる。知らなかった。僕はすでにエンパイアステートビルと自然史博物館に行ってしまっている。今からこの券を買っても得にはならない。考えた末、世界貿易センターには登らないことにした。すでにエンパイアステートビルからマンハッタンを俯瞰しているので、世界貿易センターから見る景色はそれほど新鮮味はなく値段分は楽しめないだろうと判断したのだ。最初にここに来ていれば話はすんなり決まったのだが。

世界貿易センターを出て東に向かい、チャイナタウンを目指した。マンハッタン南部は中央部と異なり道路が格子状でなく複雑に交わっていて、途中で少し道に迷ってしまい焦ったが、しばらくすると無事にチャイナタウンの中心部に到着した。看板の文字は全て漢字で、街行く人もすべて中国人なので、雰囲気はまるっきり中国だった。しかも外部よりも人口密度が高く、通りにたくさん人がいる。僕は横浜に住んでいて中華街には何回か行ったことがあるが、横浜の中華街が日本との違いをあまり感じさせないのに対し、ニューヨークのチャイナタウンは外界から隔絶された別世界という気がする。アメリカと違いすぎるのだ。話し声すら英語は少数派で中国語(広東語だろう)が幅を利かせている。中国語で書いてある英語学校の広告を多く見かける。適当に歩いている途中、八百屋で果物を安く売っているのを見かけ、薄緑色で断面が五芒星の見慣れぬ果物を買った。スターフルーツというやつか。それからしばらく行くと、屋台が集まっている市場のようなところに出た。昼飯がしょぼかったのでここで軽く食事を取ることにしよう。餃子とスープ、シュウマイをそれぞれ別の店で買い、屋台の前のちょっとぼろいテーブルでそれを食べる。餃子は皮が厚くて油っこく、日本の餃子の方が美味しいと思った。スープは酸っぱくてちょっと辛い不思議な味だが、なかなか美味しかった。

チャイナタウンを離れながら、八百屋で買った果物を食べた。皮が予想外に筋っぽく、しかもかなり酸っぱいので最初はなんてまずいんだと思ったが、食べているうちにその酸味にも慣れてきて、結局大して美味しくないにもかかわらず 4 個も食べてしまった。残りの 1 個は明日にでも食べることにしよう。やたらと汁っぽい果物なので口の周りがべたべたになってしまった。しかも不覚にもコートに汁をひっかけてしまった。

2 番街を北上し、中心部の方までずっと移動した。途中でトイレに行きたくなったので頑張ってグランドセントラル駅まで行って地下のトイレで用を足した。公衆便所がないのはやはり不便である。グランドセントラル駅はパーク街にあり、それをふさぐように立つメットライフビルの隣にあるのですぐに場所が分かる。パーク街に出て北か南を見てメットライフビルを探せば良い。レキシントン街のクライスラービルと並んでマンハッタンの良い目印だ。駅に行ったついでにまたオイスターバーを探してみた。一昨日、昨日とグランドセントラル駅に行くたびにここの地下にあるというかき料理店を探していたのだが見つからず、不思議に思っていたのだが今日やっと地下のはずれの方にあるのを発見した。中を見るとかなり大きいようだ。今日は休みのようなので入れないが、近いうちに来てみよう。会社の同僚によればかなり美味しいらしい。

ミッドタウンの辺りを散策しているとき、ゲームセンターがあるのを見付けた。アメリカのゲームセンターがどんなものか興味があったので入ってみた。ゲームは全部日本製のようだ。日本のゲームセンターと違うのは、格闘物が少なくてその代わりに射撃物とスポーツ物が非常に多いということだ。アメリカ人らしい。盗難防止のためか、支払方法は硬貨ではなくてプリペイドカードだった。意外と人が多く、上手な人がいたり下手な人がいたりで基本的な雰囲気は日本と同じだった。

それからメイシーズに行ってみた。日本にいるときから名前を知っていたデパートだが、実際行ってみると何のことはない普通の店で、大して面白くないので出てきた。むしろ日本のデパートの方が地下に地方色豊かな食品売り場があったりして面白いと思う。せっかく来たのだからとエスカレータで順番に登っていったら、最上階は女性用下着売り場で男の人は全然いなくて焦った。しかも下りるためのエスカレータは反対側なのでどうしても一度突っ切らなければならない。油断した。

夕飯はニューヨーク名物のベーグルでも食べようと思って旅行ガイドの地図を見ながらベーグル屋を探したのだが見付からず、結局あきらめてホテルの裏門の目の前のマバリ・パレスというベジタリアン料理店に行った。入ってみるとインド料理店だということが分かった。一昨日もインド料理だったが、僕はインド料理は好きなので別に構わない。適当に頼んだ料理はなかなか美味しかったが、最後のデザートがまずくて失敗した気分だった。ヨーグルト汁に浸した麩菓子という感じの冴えない舌触りだった。

ホテルに戻って右足を見てみると靴擦れができていた。タクシーも地下鉄もバスも使わずに、毎日四、五時間、固い路面をひたすら歩いて移動しているので、靴擦れができても不思議はない。歩くのは爽快で健康的なので僕は大好きである。ちなみにニューヨークは比較的温かいので歩き回っても寒くはない。むしろてくてく歩いている内に体が温まるので、普段はコートを脱いでネルシャツだけで闊歩している。ただ問題が一つある。ニューヨークは車が多くて空気が悪く、はっきり言って街全体が排気ガス臭いのだ。大型車は少ないので煤塵はそれほど感じないが、嫌な匂いが立ち込めているので深呼吸する気にはなれない。

ニューヨークを歩いていてもう一つ気付くのはドライバーのマナーの良さである。ニューヨークでは歩行者用の信号などあってもないようなもので、ニューヨークの人は車が来ていなければどんどん渡るので、僕も郷に入ったら郷に従えとばかり信号を無視しまくる。車の流れを巧みに読んで一瞬の隙を突いて信号を渡るのはなかなかの快感で、日がたつにつれどんどん大胆になってくる。そうなると車に迷惑をかけることも出てくるが、そういう時に身の危険を感じることはない。歩行者が絶対的に優先されるのだ。交差点を曲がってくる車が歩行者より先に行こうとすることはないし、歩行者が信号待ちをしている場合、自分の信号が黄色になったら車はすぐに止まる。車が歩行者に対して警笛を鳴らすこともまずない。こと交通に関する限り、日本よりはるかに安心感がある。自動車の数は日本よりも多いはずだが、マナーの悪いドライバーをほとんど見かけないというのは不思議だ。車のマナーと言えば、大学生のころ関西旅行をして大阪のドライバーのマナーの悪さにうんざりしたのを思い出す。歩行者が青信号で渡っているにもかかわらず平気で目の前に突っ込んでくる車が少なくなかった。神戸ではそれほど危険を感じなかったので大阪特有の傾向なんだろう。大阪のドライバーはニューヨークのドライバーの爪の垢を煎じて飲んで欲しい。



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