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1998 年 11 月 23 日 (月曜日)


今日も早起きで気持ちが良い。朝食としてホテルの近くの屋台でクリームチーズ入りベーグルと紅茶を買った。屋台で買い物をするのももうすっかり慣れて、すっかりニューヨーカーの気分だ。ニューヨークは屋台が多く、しかも朝早くからやっている屋台が多いので便利だ。ニューヨークはホテル代が高いのを除けば旅行者にとって非常に暮らしやすい街だと思う。ベーグルを食べ紅茶を飲みながら、現代美術館まで歩いて行った。開館時間より 1 時間も早く来てしまった。都会の旅行では早起きしてもあまり意味がないな。開館を待っていても仕方がないので、セントラルパークをぶらぶらして時間を潰すことにした。散歩の途中、ふと現金の持ち合わせが足りないのに気付いた。また現金化するのを忘れてしまった。財布の中にはあと 10 ドルくらいしかない。美術館、博物館のたぐいは高いので 10 ドルでは足りないだろう。この時間に銀行が開いていないのは一昨日の経験から知っている。どこかの店で現金化するのが一番良い。そこで、右足の靴擦れを保護するためにばんそうこうを買うことにした。セントラルパークを出てぶらぶら歩いていると、デュエイン・リードというニューヨークではよく見かけるスーパーを見付けた。早速その店でばんそうこうを買う。ついでにアメリカの味を試すため、ハーシーズの板チョコも買ってみた。日本でも簡単に手に入るのかもしれないが、ハーシーズというといかにもアメリカっぽい感じがして買ってみたくなる。さて、いざ支払おうとしたら、トラベラーズチェックが使えないことを知らされた。当然使えるものだと思っていたが、最初に聞いておけば良かった。今回はカードで支払い、一昨日と同じくトラベラーズチェックの現金化のためスターバックスに行くことにした。朝ご飯が少なかったので何か食べればちょうど良いだろう。てくてくとスターバックスまで行き、マフィンとカフェ・ラッテをトラベラーズチェックで買った。スターバックスは使える。僕が本人証明のためにパスポートをレジの人に見せると、その人は最近日本に旅行したと言った。東京、京都、大阪に行ったそうだ。素晴らしい旅行だったと言っていた。それを聞くと何だかうれしい。日本を出ると良い意味で愛国心が湧いてくるものだ。

のんびりとマフィンを食べたりしたおかげで、再び現代美術館に行ったときにはもう 11 時近くになっていた。平日だというのに意外と人が並んでいる。僕は現代美術が好きで(実を言うと印象派以前の西洋美術は良く知らないのだ)、ニューヨークの現代美術館は特に良い作品がそろっていると評価が高いので、常設展に非常に期待していた。そのため現在の特別展が何か特に気にしていなかったが、行ってみるとジャクソン・ポロック展を開催していたので俄然見る気が出てきた。ポロックは抽象表現主義の中でおそらく最も有名な画家で、僕はかなり好きなのだ。料金表を見ると常設展と特別展合わせて 12.50 ドルと書いてある。かなり高い。ふと、その下にニューヨーク州立大学生、ニューヨーク市立大学生、後援企業社員は 3 ドルと書いてあるのを見付けた。横の後援企業一覧を見ると、おお、僕の会社があるではないか。しかも、もしかしたら役に立つかもしれないと思ってちゃんと社員証を持ってきている。すごく得した気分だ。早速社員証を見せて 3 ドルで券を購入し、特別展のポロック展に向かった。この展示は 3 階で開かれているが、残念なことに普段 3 階で展示されている戦後の現代美術が今はないことが分かった。リクテンスタインやウォーホルは見れないのは残念だが、ジャクソン・ポロックの方を楽しむことにしよう。

ジャクソン・ポロック展は、画家として活動を開始した時期から死ぬまでの主だった作品が大体集められていてかなり充実した展覧会だった。特に後期の巨大なドリッピングの作品が数多く展示されていて圧巻だった。ビデオで見る彼の製作風景はかなりいい加減に思えるが(だってただ絵の具を垂らしたり飛び散らせたりしているだけだよ)、完成すると色の配置が実に良い感じになるのは面白い。中期までの作品は背景を塗っているので作為的な感じが抜けきらず、しかも絵が閉じている気がしてあまり好きではないが、後期になると背景は絵の具を塗らない無地のキャンバスが主流になり、前景の絵の具もより動きが感じられる形なので、空間的な広がりが出て格好良い。

ポロック展以外では日本の生地展が面白かった。日本の繊維企業が作ったハイテク特殊繊維を日本の芸術家が織り込んだりしたもので、欲しくなるような服がいくつかあった。しかも生地に自由に触れるというのがありがたい。鉄でできた柔らかいのにメタリックな光沢がある繊維は実際に売り出したら人気が出そうだが、銅でできた繊維は固くてとても服には使えなそうだった。

ニューヨーク現代美術館は世界に名を知られた有名な美術館だが、その建物はあまり大したことはないと思った。どこにでもあるビルという感じだ。建物だけで言うなら、木場にある東京都現代美術館の方がはるかに開放感があってすがすがしく、美しいと思う。僕は東京都現代美術館は東京で一番面白い場所だと思っていてよく行くが、外国人などの旅行者風の人を全然見掛けないところを見るとその面白さはあまり知られていないのかもしれない。ニューヨーク現代美術館は旅行者がたくさんいてずっと活気があってうらやましい。

美術館を出たときにはもう昼過ぎで、少しお腹が空いてきたのですぐ近くの屋台で鶏肉のジャイロ(ジーロ?)を買った。本当はファラフェルという豆などが入った料理が食べたかったのだが売り切れだったのだ。ジャイロはアラブ風のサンドイッチで、目の前で鉄板で鶏肉や野菜を炒めてピタパンに挟んでくれるので出来立てを食べることができる。ただ、具を炒めながら押しつぶすのに使うアイロンみたいな形状の道具にアルミホイルが使われているのはちょっと嫌だった。ジャイロを包むのにもアルミホイルが使われる。アルミホイルは間違えて奥歯で噛んでしまうと痛いのか痛くないのか良く分からない謎のしびれがあるし(試しにやってみると良い)、アルミニウム自体、アルツハイマー病の原因として疑われているので嫌いなのだ。健康第一主義のアメリカ人には似合わない気がする。

セントラルパークまで移動してジャイロを食べる。汁が多すぎてぽたぽた垂れて困ったが、かなり美味しかった。ニューヨークの屋台ははずれが少ないと思う。僕が唯一興味をそそられない屋台の食べ物は蜂蜜で味付けしたローストナッツだ。やたらと甘そうな匂いを発散させているナッツの屋台をよく見かけるが、まずい西洋甘味ほど気持ちの悪いものはないので全く挑戦する気がしない。そんなことを考えながら、昨日の残りのスターフルーツを食べ、朝買ったハーシーズのチョコを食べた。スターフルーツはやはり酸っぱくて美味しいものではなかった。ハーシーズのチョコは、食べる前はやたら甘いものを予想していたが実際はそれほど甘くなく、むしろ脂っこさが気持ち悪かった。濃厚なバターを食べているような味と香りなので、もう買うのはよすことにした。

その後、FAO シュウォーツというおもちゃのデパートに行った。日本のおもちゃ屋と違うと思ったのはぬいぐるみが非常に多いということだ。人間の大きさのぬいぐるみも少なくない。日本だとテレビゲームが主体だと思うが、ここでは端っこの方にあって主役という感じではなかった。テレビゲームを展示しても旅行者には面白いとは思えないのでこの方が良いと思う。ボードゲームも多く、一つの階がまるごとボードゲームの階になっていた。僕はそこでスクラブルという英単語を並べるボードゲームを買った。前から欲しかったわけではなく、また日本でも手に入るゲームだが、手ぶらで出るのももったいないと思ってつい買ってしまったのだ。かさばるので旅行かばんに入らないので、荷物を増やしただけかもしれない。帰国したら英語の勉強に使おう。しかし英単語のゲームを一緒にやりたがる人は果たしているのか?

おもちゃ屋を出ると大分暗くなっていたが、まだ時間はあるのでソーホーを見て回ることにした。近かろうが遠かろうがいつでも歩いて行くのが僕の流儀なので今回も当然歩いた。やがてソーホーに到着し、さらにずんずん南に歩いていると、旅行ガイドに載っていたケイツ・ペイパリーという紙専門店があったので何かお土産になるようなものはないかと思って物色してみた。色々と変わった紙やはんこを売っていたが、千代紙や干支のはんこなど、日本製のものがかなり多くてとてもアメリカ土産にはなりそうもなかった。非常に美しい大判のマーブリングの紙が気に入って買いたくなったが、かさばる上に、昔日本で見かけたマーブリングの紙と似ている気がしてアメリカ製だという確信が持てなかったので結局何も買わずに店を出た。日本製のものをアメリカ土産にしても意味がない。そのまま辺りをぶらぶらしていたら、アフリカのショナ人の民芸品ギャラリーがあり、すごく躍動感のあるキリンや象の彫像があってその巧みなデフォルメに感心したのだが、ますますかさばるしとてもアメリカ土産にはならないのでここでも何も買わずに店を出た。その後もこれといってめぼしいものは見当たらず、お土産は後日また探すことにした。

ソーホーからホテルに戻る途中、ソンという美味しそうな中国湖南料理の店を見付けたのでそこで夕食を取ることにした。炒めビーフンと鶏肉料理、それにデザートの果物を一品ずつ注文し、料理を待っているとやがてビーフンが最初にやってきた。それを見た瞬間、自分がまずい状況にいることが分かった。予想よりはるかに量が多い。ビーフンだけで日本なら二人前の量だろう。ビーフンは美味しかったが、しかしこの量はまずい。黙々ともぐもぐと食べていると、鶏肉料理、さらには自動的に付いてくるご飯がやってきた。ご飯が付いているとは知らなかった。道理でビーフンと鶏肉を注文したときにウェイトレスがちょっと怪訝な顔をするわけだ。ご飯は日本に普通にあるジャポニカ米ではなくインディカ米(長くてぱさついた米)で、中華なのにインディカ米なのかと不思議に思ったが、そんなことよりも鶏肉の量もまたすごくて危機感がつのった。全部合わせると五人前はありそうだった。他人からすればくだらないかもしれないが、僕は料理を残さないという主義があるので(残すのは農家と料理人に失礼じゃないか!)、意を決して全部平らげることにした。鶏肉は胡麻がまぶしてあり甘目のたれがかけてあって絶品で、ビーフンもまた素晴らしい味で、どんどん食が進んだがさすがに七、八割食べた辺りで満腹になり、食べる速度が急低下した。ベルトをゆるめる奥義は格好悪いので使いたくないしここまで来るとあまり効果があるとは思えない。ジャスミンティーを飲みながらゆっくりと料理を楽しもう。旅行ガイドを読みながらちょっとずつ料理を食べていると、やがて終わりが見えてきた。頑張れ、頑張るんだ、俺! などとくだらない励ましを自分にかけつつ、最後まで食べきった。やったよ、みんな! その後のデザートはぺろっと食べた。デザートは入る胃袋が別だ。それからまた無料のオレンジが出た。それが出ると知っていたらデザートは要らなかったな。いずれにしても全部食べきった。味は素晴らしかったので満足だが、さすがに食い過ぎた。

料理を食べ終わる頃、隣の席に日本人が座ったのでちょっと言葉を交わした。日本語が懐かしい。その人はシリコンバレーで働いていて休暇で東海岸に来ているそうだ。その割には英語がかなりまずかったな、なんてことは僕にはとても言えない。

ホテルに帰ってベッドの上でごろごろしていたらいつの間にか寝てしまい、再び起きたのは深夜だった。まだシャワーを浴びていないし、しかも今日は下着を洗わなければならない。今日洗わないと明後日着る下着がないのだ。シャワーを浴び、それから眠くて仕方がなかったが頑張って下着を洗ってからベッドに入った。今日は色々と頑張った一日だった。



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