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1998 年 11 月 24 日 (火曜日)


ニューヨークは今日でもう 6 日目だ。観光名所は随分回ったので今日は映画を観て少し息抜きをしよう。ニューヨークに来たからにはブロードウェイのミュージカルを観た方が良いと思うかもしれないが、ミュージカルには特に興味はないし、今までも全然観たことがないので今回の旅行では観なくても良いだろう。それにミュージカルに行くにはちゃんとした服装が必要だと思うが、この旅行に持ってきている服はカジュアルなものばかりだ。

この旅行にはネルシャツを赤 2 枚、青 1 枚、ジーンズをベルボトムとストレート 1 本ずつ持ってきた。服装にはこだわる性格なので、靴下もちゃんとシャツに合わせて赤や青を持ってきた。ネルシャツは比較的薄手で洗いやすい割には暖かいので、荷物がかさばる冬の旅行には重宝する。上着は灰色の厚手のコートを 1 着持ってきた。A ラインのコートなので、よく女の子っぽいとかロシア人っぽいと言われる。ニューヨークは東京ほど服装に気を使っている人はいないのでこのコートはちょっと浮いているようだ。ここに来る前はニューヨークではストリート系のファッションがはやっているのだと予想していたが、実際には意外と保守的で奇抜な服の人はほとんどいない。アフリカ系の人々は髪型に気合いが入っているが(ドレッドが多い)、服装はそれほど大したことはない。あるイギリス好きの友人はロンドン人に比べたらニューヨーク人は服装が田舎くさいと言っていたが、当たっているかもしれない。街で見掛ける洋服店も、観光客向けの高級ブティックを除くと GAP ばかりだ。GAP はアメリカでは有名なチェーンで日本でも最近ぐんぐん伸びているが、売っている品は僕にとっては普通過ぎて全然買う気がしない。昔ハワイで行ったことがある Crazy Shirts という T シャツ屋がニューヨークにもあり、色々と変わったのを取り揃えていたのを思い出すが、今は冬なので T シャツを買っても仕方がない。東京の方が服装事情は良いように思う。

さて、僕は朝起きて服を着て歯磨きをしてからすぐにホテルを出た。まずは朝食だ。最近トラベラーズチェックの現金化でよくお世話になったスターバックスに行くことにした。距離があるのでそこに行くまでがちょっとした運動だ。僕は朝食を欠かしたことはないが、それというのも朝食を取らないと猛烈に空腹になるからで、ホテルからスターバックスへ行く途中でも空腹で結構へばってしまった。スターバックスではシナモンベーグルとりんごジュースを取った。味は普通だった。朝飯を食べながら、映画館の場所を地図で確認した。今日行くのはソニーシアターという IMAX も上映している総合映画館だ。ソニープラザといいソニーシアターといい、ニューヨークではソニーを見かけることが非常に多い。日本企業の中でもソニーだけが出現回数が突出している。さすが世界企業という感じがする。

ソニーシアターはセントラルパークの西側の北の方にあるのでスターバックスからは結構遠かった。着いてみるとまだ開いていない。恐らく 10 時からなのだろう。入り口で待っていても寒いだけなので周辺をぶらぶらすることにした。歩いていれば体も温まるし、街の見物もできるので一石二鳥だ。と言っても周辺には観光客にとって面白いものはなかった。周りを見ながら歩いていると、知らない人が話しかけてきた。住所を書いたメモを見せて、それがどこか聞いてきたのだ。何だか嬉しい。アメリカの都会では誰が旅行者で誰が土地の人か見分けが付かないので道を聞かれることがあると聞いていたが、こうして実際に道を聞かれるとニューヨークの多民族性を実感する。日本では外国人に道を聞く人などほとんどいないだろう。僕自身は東京のどこだかでインド人二人組に道を聞いたことがあるが、それは話し掛けるまで相手が日本人だと思っていたからだ。僕は近視だが、彼らの服装はインド風だったので普通なら気付かないはずがない。これは実は視力ではなく注意力の問題なのだ。なにしろ僕は、会社のカフェテリアで友達二人が座っていると思って四人テーブルにさっさと加わり、しばらくご飯を食べてから顔を上げるとその二人は実は全然知らない人だったので驚いたということがあるくらい注意力がないのだ(自分の料理ばかり見ていた)。それはともかく、僕に声をかけてきた人が知りたがっていた住所は地図に出ていなくて分からなかったので、他の人に聞いて欲しいと答えてその場を去った。

10 時過ぎにソニーシアターに戻ってきた。案の定すでに開いていた。いくつかの映画が上映されていたが、どれもぱっとしない。一番人気がありそうなのは "Antz" という CG を使った蟻の映画だが、これは今日本でも上映しているのでわざわざニューヨークで観ることもないだろう。それに CG を多用した映画は大抵はずれである。結局、"Celebrity" という映画を観ることにした。良く内容は分からないが、美女がたくさん出てくるし、一番早く始まるのでそれにしたのだ。券を購入して館内に入る。平日だけあって中はがらがらだ。やがて映画が始まった。見ると監督がウッディー・アレンとある。彼の映画は一本も観たことがないから楽しめない可能性が大だな。映画の中で冴えない男がなぜかもてているのが分かるが、英語がよく聞き取れないので話の筋がつかめない。自分ではもう少し英語ができると思っていたのだが、やはり外国語の聞き取りは難しい。会話なら聞き取れなかった部分は聞き返せば良いので気楽だし、背景に音楽が流れていることもないし、口の動きが見れるので(これが意外と重要)ずっと聞き取りやすい。映画を使って英語を勉強したことはなかったけど、これからはそういう修行も必要だな。そんなことを考えていたら、映画の方はよく分からないまま終わってしまった。はずした…。はっきり言って金を損した。ただこの映画にも一つだけ面白かったことがある。モデル界の話があってたくさんモデルが出てくるのだが、モデル同士がパーティーで出会うと「きゃー」という高い声を出して驚きの姿勢(ひじから先を上げて手のひらを相手に向ける)を取るのだ。どこが面白いか? 以前、西洋の女性は甲高い声や子供っぽいしぐさを嫌い、また女同士でつるむことも少ないので若い日本人女性がはしゃいでいるのを見ると非常に子供っぽく感じると聞いていて、実際にニューヨークでもそういう印象を受けたので西洋の女性は皆大人っぽさを目指しているのかと思っていたら、モデル同士の挨拶は日本の女の子の感覚に非常に近いということを発見したので面白かったのだ。日本はモデル指向ということか?(違うか)

映画館を出て、エッサ・ベーグルという旅行ガイドに出ていたベーグル屋で食事をしようとしたのだがどうやら潰れたようで見付からず、近くのデリで果物の詰め合わせを買ってセントラルパークでそれを食べて昼食とした。昨日は食べ過ぎたので今日も同じ感じで食べたら太ってしまう。と言いつつ果物の詰め合わせは結構分量があったが、多くは水分なので大したことはないだろう。

映画がつまらなかったので非常に時間を損した気分になる。美術館に行けば良かった。ニューヨークには小さ目の美術館がたくさんあり、全部回ろうとしたらとても時間が足りないのだが、映画よりは良かっただろう。もう昼過ぎだが気持ちが不完全燃焼なので今からメトロポリタン美術館に行くことにした。

メトロポリタン美術館は美術館より博物館と翻訳するべきもので、色々展示物があるが、改装中のことがあっていつも全部見れるとは限らない。今日もアジア関係はほぼ全滅で、来週にならないと見れないと言われた。主に見たのは古代ローマやギリシャ、それにエジプトを少しずつだ。僕は最近エジプトに興味を持っている。エジプト文明の最初の民族が何だったのか、異論があって面白いからだ。一般にはエジプトには最初からずっとセム系の人々が住んでいたと考えられているが、一部の学者はヌビア人などのアフリカ系の人々がナイル河口に住んでいた最初の人々だったという説を唱えている。現在のところそれを支持する証拠はせいぜい石像や石版くらいで確かではないが、古い時代の話なので完全に否定することもまたできていない。初期王朝の王をかたどった石像の中にはいかにもアフリカ人という感じのもの(厚い唇、平たい鼻、丸い顔)があるのを写真で見たことがあるが、メトロポリタン美術館には特にそういう物はなかった。個人的には最初のエジプト人がアフリカ系だったというのには疑いを持っていて、やはり定説通り最初からセム系だったのだろうと思う。ただ、当時アフリカ系とセム系がはっきり分離していたかどうか分からない。東ユーラシアを見るなら、日本人を含む寒冷アジア系の人々が温暖アジア系から分かれたのはわずか一万数千年前のことなのだ。サハラ砂漠は気候変動が激しく今の倍の大きさの時代もあれば全部草原になってしまった時代もあるので、必ずしも砂漠がアフリカ系とセム系を分けているとは断言できない。

その他、西洋の甲冑や剣が見応えがあった。その隣に日本の鎧兜や刀があった。これを見ると昔の日本人は背が低いなと思う。日本の鎧を見ながら馬鹿笑いしているアメリカ人親子がいて、なんだか不愉快だった。面を見て笑っているのかもしれないが、他国の文化に対して失礼だし、そもそも博物館では静かに見て欲しい。

メトロポリタン美術館は西洋絵画が充実しているが、時間がなかったのでとても全部は見れなかった。映画など観ないで最初からここに来ていれば良かった。全部見るには丸一日必要だろう。

美術館を出て南に向かい、何か面白いものはないかと探していたらウォーナー・ブロスの宣伝ビルを見付けたので入ってみた。バグズ・バニーなどのキャラクター商品が売られている。六、七階建ての建物全部がそういう商品で埋め尽くされているのだ。アメリカのアニメには興味がないのでキャラクター商品は買わなかったが、代わりに駄菓子を買った。袋に自分で好きなように詰めていって重さに比例して支払う仕組みだ。アメリカの駄菓子は見た目がグロテスクで非常にまずそうだが、それが僕の冒険心を喚起する。色々ある中から色がどぎついものや黒くてぶよぶよしているものなど、最も人間の食物からかけ離れているものから順に取っていった。挑戦するのが楽しみだ。

夕飯は先日見付けたグランドセントラル駅地下のオイスターバーで取った。頼んだのは蟹のクラムチャウダーと生がき。生がきには産地や品種によって二十種類くらいあり、それぞれ別々に頼めるようになっている。適当に二種類頼んだが、見た目が全然違う上、味も微妙に違って奥が深い。クラムチャウダーも非常に美味しかった。調子に乗ってカリフォルニア白ワインと別の生がき二種類を頼んだ。今度のかきもまた微妙に違う味で、どれも素晴らしく美味しかった。付け合わせのパンも種類が多くて美味しい。特にサワードウという丸くてもろいパンが美味だった。とても満足できた食事だった。食事を終えウェイターに清算を頼み、クレジットカードで支払おうとしたらサイン用紙にすでにチップ代が書き込んであるのに気付いた。日本人はよくチップを忘れるのでウェイターが自己防衛のために事前にチップを書き込んでしまうことがあると聞いたことがある。しかし今回書き込まれた額はチップの相場(税抜き価格の 15% から 20%)と比べると 1 ドルちょっと高いし、そもそも日本人だと思って勝手に書き込まれるのは気に入らない。ジャパンプレミアムはご免だ。そこで、チップの支払い方を知っているのでチップ代を書き込んでいないサイン用紙を再発行して欲しいと言ったら、当たり前だがちゃんと取り替えてくれた。郷に入ったら郷に従えと言うが、それは土地のしきたりを尊重するということである。少なくない日本人がチップを忘れるのは、不注意のためとは言え反省するべきだと思う。そういう人々のせいでチップの払い方を知っている人まで一緒くたにされてチップを事前に書き込まれてしまう(しかも少し高い)。

夕飯が素晴らしかったので、今日は駄菓子には挑戦しないことにした。美味しいものを食べた後にわざわざまずい(と予想される)ものを食べることはあるまい。



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