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1998 年 11 月 25 日 (水曜日)


下着が切れかけているので洗濯することにした。長期旅行で一番厄介なのがこの洗濯だ。時間を食う上に面白くない。嫌々洗濯していたのでますます時間がかかってしまった。そのあと次の予定地であるワシントン D.C. で泊まるホテルを予約し、ホテルを出た。朝食は近くのデリでケイジャンチキン・ベーコン・ベーグルとホットチョコレートを取った。もうデリにはすっかり慣れたのであまり新味はないが、味は良かった。

今日は特に目的地はない。マンハッタンの観光名所はハーレム以外は大体行っただろう。ハーレムには行こうか行くまいか非常に迷ったが、結局行かないことにした。僕はブラック・ミュージックが好きなのでアポロ・シアターとかは楽しめそうだし、ソウル・フードもアメリカ料理とは思えない(!)美味しさだと聞いていたので食べてみたいのだが、旅行ガイドは一人で行くなと言っているので安全を優先することにしたのだ。実際こうしてニューヨークにいてもそれほど危険な感じはしないのだが、僕が子供の頃からハーレムという名は危険なスラムの代名詞だったのでどうしてもびびってしまう。ハーレムは観光会社を利用すれば安全に楽しめるらしいが、事前の予約が必要だ。またの機会にしよう。

自由の女神を見に行った日と同じように、ブロードウェイをてくてくと南下した。ソーホーを通過してトリニティー教会にたどり着いた。道の脇にあるにもかかわらず、前はこの教会を見逃していた。脇見せずにずんずん進んでいたからだ。今日は教会前で左に折れ、ウォール街を散策する。来た道を振り向くとトリニティー教会がビルの谷間にそびえている。僕の持っているネクタイと同じだ。星条旗が掲げられているのも絵のとおりで感慨深い。ウォール街は特に活気があるという感じはしなかったが(何しろ金融業界風の人より観光客の方が多い)、辺りにはいくつか巨大なオブジェがあって面白かった。どれも排気ガスで煤けていてあまり美しくはないが、なかなか斬新な姿のものが多いので遠目には格好良い。

一旦ウォール街を離れてバッテリーパークを散策した後、またウォール街に戻ってきて屋台で昼飯を買った。今日はフィラデルフィア・チーズステーキという、焼き肉と溶けたチーズをホットドッグ風にパンに挟んだものを食べた。ついでにコーラも買った。味は予想通り、こってりしていて食べ応えがある。チーズバーガーのハンバーガーの代わりに焼き肉が入っているものと思えば良い。コーラと一緒に食べているといかにもアメリカの食事という感じがする。ところで僕は普段はハンバーガーを食べないし、炭酸飲料も飲まない。洗練された味を好む僕としては(と言えるほど味覚が鋭いわけではないが)、アメリカ人の食っている子供っぽい味の食べ物なんぞ食う気がしないのだ。コーラを飲んだのは何年ぶりだろう。でもこうしていかにもアメリカという感じの濃厚な食事をして、自分はアメリカにいるのだと実感した。チーズと焼き肉の混じった味はまあまあだったが、やっぱり洗練とは程遠かった。

それから北上してマディソン街をぶらぶらと見て回った。高級ブティックや宝石店があるが僕は全然興味が湧かない。当然か。かなり時間を消費したが特に何もせず、そのまま西に行ってブロードウェイを散策した。ブロードウェイでは観光客用の施設があり無料インターネット機があるのを発見した。今泊まっているホテルは内線と外線の切り替えがうまく行かず、インターネットが使えないことが 3 日前に分かっている。メールが溜まっていることだろう。この無料インターネット機ではメールを読むことはできないが、送ることはできる。日本語は当然使えなかったので英語で友人らにメールを書いて送った。読んでもらえるだろうか。

夕飯は 21 日に行こうとして行けなかったティベタン・キッチンというチベット料理屋に行った。多民族都市ニューヨークに来たからには各国料理を食べなければならない。幸い、今日はクレジットカード読み機が動いていたので食事を取れた。多くがベジタリアン料理で、僕は野菜の餃子とチベット茶(バター茶)を注文した。チベット茶は味噌汁みたいな味がするという話を聞いていたが実際にはそんなことはなく、ミルクティーをしょっぱくしたような味だった。美味しいのか美味しくないのか良く分からないが、慣れるとどんどん飲める。ポットで出てきたので 3 杯分くらいあったが軽く全部飲み終えると、ウェイトレスの人が新しいポットを持ってきてくれた。飲み放題ということか! 僕の目がきらりと光った。一方、餃子の方はそれほど美味しくはなく、単なる野菜餃子という感じであまり新鮮さはなかった。結局チベット茶ばかり飲んでいた。でもそれだけでは物足りないので最後にデザートを頼むことにした。名前は忘れてしまったが、説明のところに米でできたデザートと書いてあったので興味をそそられ、それを注文した。米のデザートってどんなのだろう? 出てきたのを見てみると、何だか釜飯にそっくりだった。ただし具はレーズンやヨーグルトなどだ。早速食べてみると、うむ、これはまるで釜飯だ。味は甘いが歯ごたえといい舌触りといい、ご飯の感じが強すぎてとてもデザートを食べている気がしなかった。味は悪くはなかったが、なんだかご飯をお代わりしたような感じだった。チベット料理は不思議だ。

慣れた手つきでクレジットカードを使って料金を払い、店を出てホテルに着いた時点でサイン用紙のカーボンコピーをもらってくるのを忘れたことに気付いた。何という不覚! コピーがなければいくらでも書き換えられてしまう。チベット料理屋の人たちはみんな善人そうだったが、だからといって放置して良いわけがない。仕方なくまたコートを着込み、店に戻って事情を説明し、サイン用紙のコピーをもらえないかと頼んだ。店の人は快諾し、すぐにコピーを持ってきてくれた。やっぱりいい人たちだった。感謝の意を述べて店を出、歩きながら良く確認してみると、もらったのはコピーではなく本当のサイン用紙であることに気付いた。どうやら取り違えたようだ。これでは彼らがクレジットカード会社にお金を請求できないではないか。僕はこのままこの用紙を持ち逃げすれば料理代がただになるが、善人から金を巻き上げるほどさもしい人間ではないので再びすたすたと歩いて店まで戻り、サイン用紙を返してコピーを求めた。店の人は、コピーを渡そうとしたときに料理の汁で汚れていたのでそれを渡さないで、つい本当のサイン用紙の方を渡してしまったという。まったく善人だな。結局ちゃんとコピーはもらえ、感謝もされたので気持ちよくホテルに戻ることができた。でも次からは取り忘れないようにしよう。



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