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熱さと暑さの間


人間には二つの温度感覚がある。皮膚の神経で感じる皮膚温度と、視床下部で感じる自分の体温である。日本語では、この感覚を言い分ける。

皮膚温度体温
高温熱い暑い
低温冷たい寒い

「暑い」とは体温が正常より高いことで、皮膚の血流が増え、発汗する。この状態から体温が望みどおり下がる感覚が、「涼しい」である。一方、「寒い」とは体温が正常より低いことで、皮膚の血流が減り、体が震え、鳥肌が立つ。ここから体温が望みどおり上がる感覚が「暖かい」である。

高温では、字は違うものの「熱い」と「暑い」で同じ言葉であるが、なぜ低温では言葉が違うのか、考えてみよう。

熱い物を飲食すると、胃の血行が良くなり、その熱を逃がす。血は全身を巡っているので、結果的に体温が上がる。したがって熱い物をとり過ぎると、暑くなる。体温が低いときはこれが快いので、暖かく感じる。したがって寒い時期の熱い飲食物は、「温かい」と言える。「熱い」と「暑い」、「温かい」と「暖かい」は近い感覚なのである。風呂に入っても「熱い」と「暑い」、「温かい」と「暖かい」の近さが分かる。お湯の熱が皮膚から入り、血流に乗って全身に運ばれるからだ。

一方、冷たい物を飲食すると、胃の血行が悪くなり、胃は冷えたままになる。血が十分に流れないので、体温が高いときでも、冷たい飲食物が体を快く冷やすことはない。冷たい物をとり過ぎると、胃が痛くなったり、体温が不本意に下がって寒くなる。したがって「冷たい」と「寒い」はかなり異なる感覚である。また冷たい水に入ると、皮膚の血流が減り、熱が奪われるのを防ぐ。たとえ体温が高くてもそうなる。そのため涼しさを感じない。熱中症の患者は日陰で風に当てるのが一番で、水に入れると良くないのは、人間の体は発汗でしか体温を下げようとしないからだ。だからこそ「涼しい風」はあっても「涼しい飲み物」や「涼しいプール」が無いのである。


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