性犯罪に関する刑法の改正要求


  1. 概略

    性犯罪に対する刑について、考えたことがあるだろうか。性犯罪は単なる快楽のための犯罪ではなく、女性への蔑視と憎悪に基づく犯罪であり、性差別をなくそうと努力する現代社会に対する挑戦だと言えよう。
    日本の刑法を見ていくうち、性犯罪関連の法律の一部を変えたほうが良いと思うようになった。私は、性犯罪に対する刑は現行よりも強化すべきだと考える。以下にその理由を示す。


  2. 罪の定義

    金銭的な犯罪として、窃盗と強盗を取り上げ、これを性犯罪である強制わいせつと強姦と比較してみよう。

    以下に刑法の条文を示す。

    罪名条文番号条文
    窃盗235 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役に処する。
    強盗236 暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。
    前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
    強制わいせつ176 十三歳以上の男女に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、六月以上七年以下の懲役に処する。十三歳未満の男女に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。
    強姦177 暴行又は脅迫を用いて十三歳以上の女子を姦淫した者は、強姦の罪とし、二年以上の有期懲役に処する。十三歳未満の女子を姦淫した者も、同様とする。

    見て分かるとおり、窃盗と強盗の違いは暴力や脅迫が伴うかどうかである。これに対し、強制わいせつ、強姦のどちらも暴力や脅迫を必要とする。人をだましてわいせつ行為をした場合はそもそも罪にはならない。財物犯罪では詐欺罪(刑法 246 条)があるのと比べると、財物犯罪と性犯罪は対称にはなっていないことが分かる。

    強制わいせつと強姦の違いは、姦淫したかどうかである。ではいったい姦淫とは何だろうか。姦淫とは、ペニスを膣に挿入することである。日本の刑法では、合体以外の行為は強姦罪とはならず、それより刑が軽い強制わいせつ罪にしかならないのだ。このように合体のみを重視する考えは、ペニスの挿入こそが女性を男性の支配下におくことであるとする考えと同じものだ。別の言葉で言えば、合体がなければ本当にその女性を「ものにした」とは言えないというわけだ。また現行法の強姦の規定は、男社会に都合が良いように作られた貞操観念にも基づいている。つまり、合体があれば被害者の女性の価値が減り、合体がなければその女性の価値は減らないというわけだ。しかし人間の価値は、個人としての尊厳にあるというのが民主主義の基本である。

    合体のみを重視する現行法は、男社会の理論を自覚せず、女性に対する性暴力が男性優越主義に基づくことを認識していないものだ。男が加害者で女が被害者であるにもかかわらず、強姦の定義を男性的な考えに従って決めるのは誤りであろう。

    しかも現実の判決においては、被害者の女性が死の危険をおかしてまでも抵抗したという事実がない限り、強姦罪とは認められないことが多い。これは裁判官の多くが旧世代の男性で戦前の貞操観念を持っているからである。命をかけて守らない限り、貞操とは認められないというわけだ。しかし実際には、死への恐怖は被害者を圧倒してしまうし、殺されるより強姦された方がましだと誰もが思うはずである。

    ペニスの挿入が女性にとって屈辱であることは確かだが、それが女性の尊厳を損なう直接の原因ではない。暴力により女性を無力化し、人格を無視した肉体として扱うことこそが、性犯罪の本質なのだ。性器にこだわる現在の刑法は底の浅い考えに基づくものであり、容認できない。

    このため、私は強制わいせつ罪は強姦罪に吸収され統一されるべきだと考える。合体が性犯罪の本質ではないからだ。またたとえ被害者の女性の抵抗が少なかったとしても、裁判官は被害者の死への恐怖を正しくとらえなければならない。


  3. 刑の軽重

    刑法では有期懲役の上限が 15 年、下限が 1 ヶ月と決められている。従って、前項で挙げた犯罪に対する刑をまとめると以下のようになる。

    罪名条文番号刑の上限刑の下限
    窃盗235懲役 10 年懲役 1 ヶ月
    強盗236懲役 15 年懲役 5 年
    強制わいせつ176懲役 7 年懲役 6 ヶ月
    強姦177懲役 15 年懲役 2 年

    強盗罪は強姦罪より重いことが分かる。また有期懲役の重さは懲役の上限で判断する決まりなので、窃盗罪は強制わいせつ罪より重い。

    しかし、金銭的な犯罪が人間の尊厳にかかわる犯罪よりも刑が重いというのはおかしい。いったい何人の人が、強盗されるより強姦された方がいいと考えるだろうか。お金はいくらでも取り返せるが、一度受けた屈辱はなくならないではないか。

    この疑念は、被害者が殺された場合を考えるとより一層強まる。以下に主な殺人の罪に対する刑罰を示す。

    罪名条文番号刑の上限刑の下限
    殺人199死刑懲役 3 年
    強盗致死240死刑無期懲役
    強姦致死181無期懲役懲役 3 年
    強盗強姦致死241死刑無期懲役

    強姦致死罪は殺人罪よりも刑が軽い。殺人罪では死刑になることがあるが、強姦致死罪では死刑にはならないからだ。また、刑法は強盗致死と強盗強姦致死を区別しているが、与えられる刑罰はどちらも死刑または無期懲役であり、強姦による違いはない。これはなぜかというと、強姦罪に対する強姦致死罪の関係は傷害罪に対する傷害致死罪の関係と同じように、殺意が否定されているからである。つまり強姦中の不慮の死というわけだ。殺意がある場合は殺人罪と強姦罪の両方が成立し、重いほうの殺人罪で刑が決まることになる。これに対して強盗致死罪は殺意があっても成立する。この辺はあくまで法の運用から来るのだが、納得行かないものを感じる。強盗致死罪が殺人罪よりも重いのは、強盗する意志が殺す意志と比べても無視できないということだと思うが、私は強姦する意志は強盗する意志と比べて無視できるほど軽いものとは考えない。

    以上、刑の重さから判断すると、明らかに刑法は女性の尊厳よりも金銭の方を上位においていることが分かる。


  4. 犯罪の抑止効果

    よく知られているとおり、刑罰には犯罪を抑止する効果がある。すなわち刑罰が重い犯罪は、犯罪者から見たリスクが高いので発生率が低くなる。しかし刑の軽重は相対的なものであり、ある罪の刑罰を重くすると単に犯罪者が別の犯罪をおかすようになるだけになる可能性がある。例えば全ての罪に対し死刑を行うと仮定すると、窃盗より強盗の方が同じリスクで大きい見返りが予想されるため、窃盗が減って強盗が増えるということになってしまう。

    ところが、性犯罪というのは犯罪者にとって代用が効かないものである。金銭ならば、窃盗の代わりに詐欺など他の手段が考えられるが、性犯罪は他の犯罪とは全く異なる性質を持っており、別の犯罪をおかすことで犯罪者の欲求を満たすことはできない。性犯罪に対する刑罰を重くしても、他の犯罪が増えるような逆効果はないと考える。したがって、性犯罪に対する刑罰を重くできる。

    ただし強姦後に被害者を殺す可能性を考えると、むやみに刑を重くするわけにはいかない。強姦事件は被害者が殺された場合に検挙率が下がるからだ。それを考慮して、全被害の合計を最小にするように刑の重さを最適化する必要がある。

    なお、強姦は他の犯罪に比べ再犯率が高いという特徴がある。同じ人間が繰り返し強姦をするのだ。従って一部で主張されている性器除去は非常に効果が高いが、日本国憲法は残虐な刑罰を禁止しているために立法化は困難だ。それよりも薬物による性欲の抑制がもし可能ならば、より人道的でより効果的な処罰となり得ると考える。


  5. 結論

    以上の理由により、性犯罪に対する刑罰を現在より強化したり、薬物による性欲抑制などの刑を導入したりするべきだ。その際、強制わいせつ罪と強姦罪を一本化すべきだ。


  6. 補足

    性に関する表現に関し、現在は性器が直接見えるかどうかが判断基準となっているが、これは表面的な基準であり、何が問題なのかを全く把握していないと言える。本当に規制すべきなのは、女性蔑視に基づく暴力的/屈辱的な性表現である。強姦、のぞきなどをテーマにした表現はすべて禁止する必要がある。一方、性器の映像は許可した方がよいと考える。必要以上に性器の神秘性を強調することは、歪んだ性意識を助長し、性犯罪の増加を促す危険性があると予想する。

    また、先日何気なく見た日本テレビの「電波少年」において、リポーターが性犯罪を受けた場面を隠し撮りしたビデオを放映し、それを見てみんなで笑い飛ばすというシーンを見た。このような番組が何ら批判されずに放映されている日本という国を恥ずかしく思う。この番組はやらせ問題も起こしていることもあり、一刻も早い放映中止を望む。

    日本のマスメディアは、他にも沖縄での米兵による少女強姦事件やイタリアでの日本人女子大生集団強姦事件などで、地名の公表や大学名の公表などを行い被害者を追い詰めている。強姦の被害者に対するこのような追い打ちをセカンドレイプというが、日本のマスメディアはこれを回避するという点で極めて能力が低いのではないだろうか。

    この文章は向原氏の指摘により変更を加えた。貴重な指摘に感謝したい。



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