小選挙区比例代表並立制に反対する


1996 年の衆議院選挙では小選挙区比例代表並立制が採用された。定数は、小選挙区選出の 300 人と比例区選出の 200 人の合計 500 人だ。私はこの選挙制度に反対する。まず現行の選挙制度を説明し、その問題点を明らかにしたい。


小選挙区では、各選挙区から 1 人の議員が選出される。投票者は候補者を 1 人選び、最も多くの票を得た候補者がその選挙区から選出される。

比例区では、各選挙区から 7 人から 23 人の議員が選出される。この人数は選挙区の人口によって異なる。投票者は政党を 1 つ選び、各政党の合計得票数をドント方式で議席数に変換し、政党の候補者名簿の上位から順に獲得議席数分だけ議員を選出する。

ここでドント方式を説明しよう。例として、定数 6 の比例区で、A 党が 30000 票、B 党が 27000 票、C 党が 12000 票獲得したとする。ドント方式では、以下のように各党の得票数を 1, 2, 3, ... という整数で順に割った表を作る。

A 党B 党C 党
得票数300002700012000
係数1300002700012000
215000135006000
31000090004000
4750067503000

係数 5 以上は省略した。上表で、赤字の部分に注目してほしい。これは表の中で大きい方から 6 個を表している。各党の議席数は、この赤字の部分の個数になる。従って、A 党の獲得議席数は 3、B 党は 2、C 党は 1 となる。ドント方式の意味は、次の条件を満たす数 n を手早く探すことにある。

政党の獲得議席数 = 政党の得票数 / n (端数切り捨て)
全政党の獲得議席数の合計 = 選挙区の定数

n は 1 議席あたりの必要得票数を表す。上表で、赤字の中で最も小さい数 10000 が、この n に当たる。従って、A 党の獲得議席数は、得票数 30000 を 10000 で割って 3、B 党は 27000 を 10000 で割って 2.7 (端数を切り捨てて 2)、C 党は 12000 を 10000 で割って 1.2 (端数を切り捨てて 1) となる。

得票数の合計を議席数で割った数を使えば良いように思えるかもしれないが、端数を切り捨てるのでうまく行かない。上の例では、得票数の合計を議席数で割ると (30000 + 27000 + 12000) / 6 = 11500 となる。この 11500 を使って議席数を計算すると、A 党は 30000 を 11500 で割って 2.61 (端数を切り捨てて 2)、B 党は 27000 を 11500 で割って 2.35 (端数を切り捨てて 2)、C 党は 12000 を 11500 で割って 1.04 (端数を切り捨てて 1) となり、獲得議席数の合計が 5 となって定数 6 と一致しない。

四捨五入ではなく切り捨てを用いるのは、その方が一票の格差が小さいからである。ある政党が切り捨て制の元で 1 議席を獲得したならば、その政党の得票数は n 以上 2 n 未満である。一方、四捨五入制の元で 1 議席を獲得したならば、その政党の得票数は 0.5 n 以上 1.5 n 未満である。前者で考えられる一票の格差は 2 n / n = 2 倍未満、後者で考えられる一票の格差は 1.5 n / 0.5 n = 3 倍未満となる。従って切り捨て制の方が良い。ただしどちらの方式でも、政党が 1 議席も取れないならその政党に投じられた票はすべて死票となることに注意してほしい。


比例区で得た議席数に従って、各政党の名簿の上位の人から順に議員に選ばれるわけだが、奇妙なことに日本の衆議院では小選挙区に立候補しつつ比例区の名簿に名前を載せることが許されている。また、小選挙区に立候補している候補者同士は名簿内で同順位となることができる。これについて説明する。

比例区の名簿は小選挙区の結果がすべて判明するまで確定しない。比例区の政党名簿に載っている人が小選挙区で当選した場合、比例区の名簿から取り除く。小選挙区で落選した場合、落選者には「惜敗率」が与えられる。これは、その候補者の得票数をその小選挙区で当選した候補者の得票数で割った数である。例えば、ある小選挙区で A 氏が 10000 票で当選し、B 氏が 9000 票で落選した場合、B 氏の惜敗率は 9000 / 10000 = 0.9 である。名簿で同順位の人がいる場合、この惜敗率が高い方が順位が上になり、低い方が下になる。

以上で名簿が確定したので、順位の高い方から順に獲得議席数だけ議員となる。

このような小選挙区に立候補しつつ比例区の名簿に載せられる仕組みだと、小選挙区で落選したにも関わらず比例区で当選するということが起こる。もしある小選挙区の候補者がすべて比例区で当選可能な位置にいるなら、この小選挙区での選挙は意味がないことになる。小選挙区で落選しても比例区で当選するからである。これでは国民の意志表示である選択の意味がなくなってしまう。この仕組みは明らかに理不尽だ。実際、この両方の選挙制度で立候補できる仕組みは国民の反感が強いので、次回の選挙までに廃止される可能性が高い。


小選挙区は、選挙区間での一票の格差が 2 倍未満になることを目指して区割りされた。比例区の政党間での一票の格差が 2 倍未満なので、この 2 倍という数を選んだのは妥当である。しかし、区割りを決めてから定数を決める中選挙区制と異なり、定数を決めてから区割りを決める小選挙区制は、区割りが恣意的になりやすい上、地域のつながりを考えると 2 倍未満というルールを守るのが難しい。実際、出来上がった区割りでは最も人口の多い北海道 8 区の人口が 545542 人であるのに対し、最も人口の少ない島根 3 区の人口は 255273 人であり、一票の格差は 2.14 倍となっている。つまり小選挙区制は最初から一票の格差が目標である 2 倍以内に収まっていないのである。

一票の価値が島根 3 区の半分以下の選挙区、つまり人口が 510546 人以上である選挙区を不当に一票の価値が低い選挙区としよう。このような選挙区は 28 ある。都道府県ごとの内訳は次のようになる。

都道府県選挙区数選挙区
東京73 区, 6 区, 7 区, 8 区, 11 区, 17 区, 22 区
大阪43 区, 9 区, 13 区, 14 区
神奈川310 区, 14 区, 17 区
北海道31 区, 8 区, 9 区
愛知26 区, 10 区
千葉24 区, 5 区
兵庫26 区, 7 区
埼玉113 区
滋賀12 区
長野11 区
福岡110 区
福島11 区

一方、一票の価値が北海道 8 区の 2 倍以上の選挙区、つまり人口が 272771 人以下である選挙区を不当に一票の価値が高い選挙区としよう。このような選挙区は 6 ある。都道府県ごとの内訳は次のようになる。

都道府県選挙区数選挙区
島根31 区, 2 区, 3 区
高知13 区
徳島13 区
福井12 区

以上の 2 つの表を比べると、明らかに地域に偏りがあることが分かる。都会は一票の価値が軽く、地方は一票の価値が重いということだ。当然と言えば当然だろう。なぜなら、小選挙区の区割りを決める際、まず都道府県に 1 議席を無条件に分配し、残りをドント方式に従って分配したからである。つまり人口の少ない県ほど底上げがされていることになる。これを確認するため、都道府県ごとの一票の価値を調べてみる。1 議席あたりの人口が少ない順に都道府県を並べると次のようになる。言うまでもないが、1 議席あたりの人口が少なければ一票の価値は高い。

都道府県1 議席あたりの人口
島根260340.33
福井274528.33
高知275011.33
徳島277199.33
山梨284322.00
佐賀292617.00
鳥取307861.00
大分309235.50
山形314597.50
香川341137.33
奈良343870.25
岩手354232.00
和歌山358108.33
三重358502.80
鹿児島359564.80
熊本368065.20
青森370718.25
富山373387.00
宮城374759.67
愛媛378756.25
岡山385175.40
栃木387033.60
石川388209.33
宮崎389635.67
長崎390739.75
山口393154.00
群馬393253.00
茨城406483.14
広島407121.00
沖縄407466.00
滋賀407470.33
静岡407871.11
秋田409159.33
新潟412430.50
岐阜413313.80
福島420811.60
長野431325.40
京都433743.33
北海道434126.69
福岡437368.18
愛知446040.20
兵庫450420.00
埼玉457522.79
大阪459711.37
千葉462952.42
神奈川469434.76
東京474222.52

このように、都会の一票の価値が地方の一票の価値より低く設定されているのは全く明らかだ。実はこの一票の価値の差は以前の中選挙区制の時から同じような傾向であった。参議院の地方区ではよりひどく、過去には一票の価値が 6 倍を越えたこともある。このような不正が起きる原因として、政権党である自民党の支持基盤が主に地方にあるという事実以外の説明は不要だ。すなわち自民党は自らに有利なように選挙区の区割りを行っているわけである。都会の住民はこのような不正を許してはならない。


そもそもなぜこのような小選挙区制が実施されるに至ったのだろうか。それは、自民党と新進党が共に政権取得を視野に入れ、政権の安定を図って多数派に有利な小選挙区制に賛成したからである。当初は小選挙区制の方が金がかからないとか、政策主体の選挙になるとか喧伝されたが、実際は全くその逆となった。そもそも、中選挙区制でただ 1 つ定数 1 の選挙区であった奄美区が当時最も腐敗していたので、このような事態になることは最初から分かっていたようなものである。それにも関わらず小選挙区制が押し進められたのは憲法感覚の欠如した党利党略のためである。選挙制度を考えるときは、どのような政治思想を持つかに関わらず、有権者の選挙での平等をまず考えなければならないので、一票の格差が 2 倍以上というのは本当はあり得ない話なのである。なぜならそれは不平等な選挙につながり、憲法に反するので選挙自体が成立しないからだ。一票の格差が解消されない限り、選挙を行うことすらできないはずなのだ。


私は小選挙区制に反対する。理由は以下の通りである。
  1. 一票の価値が 2 倍以内に収まらない。選挙区の区割りを適切に行えばこの条件を満たすことは可能だが、政権党がそのような区割り案を作ることは期待できない。
  2. 小選挙区と比例区に同時に立候補できる仕組みは、国民の選択を無効化するので認められない。
  3. 死票が多すぎる。小選挙区では、当選した候補者以外に投じられた票はすべて死票となる。つまり当選の確率が低い候補に票を入れることは棄権することと変わりがなくなり、棄権率が増えやすい。
  4. 政治家のスケールが小さくなる。政策本位の選挙になると言われたにも関わらず、実際には以前よりひどいドブ板選挙となった。市よりも狭いような選挙区から国家を考える政治家は生まれにくい。

私は中選挙区制や大選挙区制の方が良いと考える。過去の参議院全国区の経験から、大選挙区制では膨大な選挙資金がかかるということが分かっている。従って中選挙区制が良いだろう。中選挙区制では区割りが一度決定すれば、定数配分から一切の恣意性を排除することができる。定数配分には機械的なドント方式を採用すれば良いからである。選挙区の区割り自体も、コンピュータを用いて恣意性を排除すべきである。アルゴリズムが公開され一般の人々の批判にさらされることにより、区割りを限りなく透明化することができるはずだ。

個人的な意見では、衆議院を定数 400 以下にし、定数 3 から 6 の中選挙区制で議員を選出するのが良いと考える。中選挙区制では定数が 2 以上必要だが、その主旨を考えると定数 3 以上が望ましい。従って定数の最低を 3 と決めると、定数 7 以上の選挙区は明らかに 2 つの選挙区に分割できるので定数の最高は 6 で良い。定数 6 の選挙区は、端数切り捨ての関係から必ずしも定数 3 の選挙区 2 つに分けられるとは限らないので必要である。選挙区の分割条件を定めることにより区割りの恣意性を減らしやすい。ただ、この案では人口が極端に少ない県の取り扱いが問題となる。鳥取県の人口は日本全体の人口の 200 分の 1 以下なので、鳥取県を 1 つの選挙区にして定数を 3 にすると、日本全体ではおよそ 600 議席が必要となってしまう。この議席数は多過ぎるので避けたい。そのためには定数 2 の選挙区を認めるか、県より大きい選挙区を設定することが必要となる。このどちらが良いかは難しい問題だ。定数 2 の選挙区を認めると、区割りの恣意性を排除しやすい反面、衆議院全体の定数が最も人口の少ない県の人口に影響されるという欠点がある。ただ、全体の定数に幅を持たせ、その中から最も一票の格差が少なくなるような定数を選ぶという柔軟な仕組みは良いかもしれない。

選挙区にドント方式を用いて定数配分を行う場合、定数の最低を t とすると、定数 t の選挙区の人口は t n 以上 (t + 1) n 未満となる。従って一票の格差は (t + 1) n / t n = 1 + 1 / t 未満となる。例えば定数の最低が 2 なら一票の格差は 1.5 倍未満である。これは一般に考えられている 2 倍未満という基準よりずっと低いことに注意してほしい。

一方、参議院では定数 200 にし、3 年ごとに半数を全国単一比例代表制で議員を選出するのが良いと考える。比例代表制を採用する以上、選挙区を地方ごとに細かく分ける必要はないので全国単一の比例選挙区で良い。定数 200 で半数改選なので毎回 100 議席が入れ替わることになる。比例代表制では 1 議席も取れない政党に投じられた票は死票となるが、100 議席改選とは 1 議席取るのに全体のおよそ 100 分の 1 の票を必要とすることを意味する。この割合は常識的なレベルだと言えるだろう。

衆議院と参議院で異なる選挙制度を採用すると、中選挙区制で個人を対象とする選出と、比例代表区で政党を対象とする選出を行える。これにより、国民の意見が公平に国会に反映されると考える。

ちなみに最高裁判所は一票の格差が 3 倍以内なら合憲という判決を下している。しかし前に述べたように、選挙区にドント方式を用いて定数配分を行う場合、格差は必ず 2 倍未満になる。また比例区でも、切り捨て制ならば格差は 2 倍未満なのである。最高裁判所の裁判官が数字に弱いのか、政治に弱いのかは知らないが、3 倍以内なら合憲というのは愚かな判断であろう。



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