夫婦別姓法案の意義


  1. 概略

    夫婦別姓法案は今国会でも提出が見送られそうな雰囲気である。この法案は単なる姓名の問題ではない。以下でこの法案の意義を論じる。


  2. 家制度

    先日の朝日新聞の調査によると、夫婦別姓法案に対して 50 歳台では過半数が反対であるのに対し、それより若い世代では反対は半数以下であった。また、男性は女性よりも反対者が多い。これは一般的な予想と一致するものだろう。この調査では解答者の地域分布は明かされていないが、都会より地方で一層反対が強いことは容易に予想される。現に宮城県高清水町の町議会では夫婦別姓法案反対決議を出しているほどだ。

    これらの法案反対者の人々の背景にあるのは、言うまでもなく、明治から終戦までの時代に制度化され確立された「家」制度、すなわち家父長制である。今日の女性が当然のこととして享受している選挙権も、戦前は男性だけのものであった。女性は家に入ることで夫の支配下に置かれ、自立した個人として認められなかったのだ。

    敗戦によってアメリカの民主主義が日本に入り込んだが、家制度は依然として日本の文化にくさびのように打ち込まれている。都会(特に首都圏)では地域の共同体がなくなり、学校が全ての教育を担うようになって初めてこの考えから抜け出せたが、田舎ではなお家の影響力が強く、家制度から抜け出すことは難しい。特に地域共同体の力が強い第一次産業地帯では家制度の力が強いため、女性の地位が低い。例えば、知人が新潟の農村で葬式に出た時の話がある。葬式の後の宴会で男性が酒を飲み料理を食べている間に、女性はただ料理を作っていただけで、結局その女性たちは宴会が終わった後に部屋の隅の小さいテーブルでひっそりと食事をとったそうだ。その土地の男性たちはそれを当然の事として受け止めていたという。

    そして問題なのは、政権を握る自由民主党の重要な支持層が高齢者と地方の有権者だということだ。現にこの調査結果を見た自民党幹部は「夫婦別姓法案を急ぐ必要はないことが分かった」と発言している。しかし本当にそうだろうか?


  3. 法案の意義

    この法案の重要な点は、夫婦同姓/別姓を選択できるということである。つまり、同姓を望む夫婦は同姓にすれば良く、別姓を望む夫婦は別姓にすればよいのだ。従ってこの法案が成立しても、同姓を望む夫婦の生活を脅かすものではない。他の夫婦が同姓なり別姓なりを望む時に、どちらかを禁じる権利があるというのだろうか。姓が変わることで不便を被るのは、主に企業で働く女性なので、夫婦別姓を認めないということは働く女性を不利にする直接的な影響がある。

    自分が女性で、企業で働いていると想像してみてほしい。今、会社にはさまざまな個人情報が旧姓で記録されている。過去に自分が出したレポートも、すべて旧姓でサインされている。取引先にも旧姓で名前を憶えられている。ここで結婚して姓を変えることになると、自分の過去と断ち切られる感じがしないだろうか。夫は当然のごとく姓が変化しないにもかかわらず、女性が随分と不利な扱いを受けるような気がしないだろうか。

    別姓法案反対者の主な意見としては、夫婦の絆が失われる、伝統が破壊される、などというものが挙げられる。しかしながら別姓を選択する夫婦は合意の上で別姓を選択したのであり、絆の強さは同姓を選択した夫婦と同じであろう。むしろ同姓であることしか絆がないなら、その夫婦は相互理解の危機にあるといえる。そもそも夫婦が合意し、夫婦だけに影響がある事項に関して、他人がとやかく言うのは余計なお世話だ。

    また、伝統の破壊に関していえば、女性を男性の一段下に置くための伝統なら民主主義の現代日本では破壊されて当然だ。第一、百数十年前はほとんど誰も姓を持っていなかったのに、その伝統は明治になって喜んで忘れたではないか。保守的な人々が日本の伝統と考えるものは、実際は明治の伝統に過ぎないことが多い。家父長制もその一つだ。夫婦別姓に反対するこれらの意見は、女性の労働に理解を示さず、主婦をやっていれば良いという考えに基づいている。それが、男性の女性に対する優越が崩れることへの不安から来ているならば、残念なことだ。

    日本は男女平等をうたう憲法が成立して 50 年以上たつにもかかわらず、男女平等が実現したとは言えない。これは家のあり方に問題があったからだ。いったい何人の人が、両親から男女平等を学んだであろうか。夫の姓で統一する夫婦が、夫婦別姓という選択肢がありえた上であえて同姓を選択するという意識なしに、子供に男女平等を教育することはできない。また、憲法が男女平等を唱えても、法律がそれを実現しないならば憲法に対してシニカルな見方が広まるのみだ。法の下の平等が実現しない民主国家は偽善でしかない。

    日本は夫婦別姓を認めるだけでなく、そもそも家制度を支えている戸籍制度を考え直す必要があると私は考える。しかし日本がこれからもなお夫婦別姓の道を閉ざすならば、日本にはしょせん男女平等はないのだという印象を世界に与えてしまう。それは民主主義の理想に反するし、将来を見据えた国家の戦略ではあり得ない。



別姓を考える会 - 夫婦別姓選択制を実現させるための運動などにとりくむ市民グループ
すすめよう! 民法改正ネットワーク - 夫婦別姓に関する情報や意見を多数掲載
夫婦別姓を考える - 女性の方の個人的なホームページだが、別姓に関する情報が充実
マリッジ・リング - 結婚に関するホームページ、事実婚や夫婦別姓の情報も掲載

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